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山形地方裁判所 昭和45年(ワ)48号 判決 1971年10月29日

原告

蒲沢章夫

ほか一名

被告

真野宝導

ほか二名

主文

被告真野宝導、同真野宝四郎は各自原告らに対し、それぞれ金一五二万二、六三七円および内金一四二万二、六三七円に対する昭和四二年一〇月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告真野宝導、同真野宝四郎に対するその余の請求並びに被告住田則に対する請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告真野宝導、同真野宝四郎との間に生じたものは同被告らの各負担とし、原告らと被告住田則との間に生じたものは原告らの各負担とする。この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「被告らは各自原告両名に対しそれぞれ金二〇八万七、六三七円およびこのうち金一九二万二、六三七円に対する昭和四二年一〇月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。」

との裁判並びに仮執行の宣言。

二  被告ら

「原告らの被告らに対する請求をすべて棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。」

との裁判。

第二

一  請求の原因

1  事故の発生

被告住田則は、昭和四二年一〇月三日午後七時四〇分ごろ大型貨物自動車広一い八一一八号を運転して静岡県沼津市城内添地方面から同市大門方面に向けて進行し、同市西条町一四三の一番地国道上の横断歩道のある交差点にさしかかり、同交差点の青色信号に従い右折し、同市白銀町方面に向おうとし時速約三〇キロメートルで進行した。ところでこのような場合、自動車運転車としては、横断歩道を横断し、又は横断しようとしている者の有無に注視し、それらの者がいるときはその者に危害を与えないように、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その者の進行を妨げないようにする注意義務があるのにかかわらず、被告則はこれを怠り、同市大門方面から同市白銀町方面に左折する普通乗用車に気を奪われて、横断歩道の歩行者に対する注意を欠き、折柄、同横断歩道を横断しようとしていた訴外蒲沢和子に全く気付かないままに右折した過失により、同女に衝突し、同女を路上に転倒させて左前輪で轢過し、よつて同女に内臓破裂の傷害を与え、即死させた。

2  責任原因

(一) 被告住田則は前記事故につき前記のとおり過失があり民法第七〇九条による損害賠償責任がある。

(二) 被告真野宝四郎、同真野宝導は自賠法第三条による責任がある。すなわち、同被告らは運送業「世羅運送」の共同経営者であり、前記事故車の使用権限を有し、右業務に使用していた。そして被告善則は右事業の従業員であり、右業務として同車を運転中前記事故を起したものであるから、被告宝四郎、同宝導は運行供用者としての責任がある。

(三) かりに被告宝導が運行供用者でないとしても、同被告は被告宝四郎を代理して前記「世羅運送」の運送業を監督する地位にあつたものであり、被告則の選任または監督をしていたから、代理監督者としての責任がある。

3  損害

(一) 和子の逸失利益

(1) 事故時の年令 二四才一〇月

(2) 推定余命 四八・七四才

(3) 収入月額 三万一、八九一円

(4) 控除すべき生活費 月額一万六、八九一円

(5) 純利益 月額一万五、〇〇〇円

(6) 稼動年数 三〇年

(7) 算式 ホフマン復式

(8) 現在額 三二四万五、二七四円

(二) 相続による承継

原告蒲沢章夫は和子の父、原告蒲沢京は和子の母であるから、法定相続分により和子の権利を承継した。

原告章夫の相続分 一六二万二、六三七円

同京の相続分 一六二万二、六三七円

(三) 慰藉料

原告章夫 二〇〇万円

同京 二〇〇万円

(四) 損害のてん補

(1) 自賠法一六条による責任保険金の支払三〇〇万円。

(2) 被告宝導から受領した分四〇万円。

(3) てん補状況

原告らの右二、三の損害について各一七〇万円を按分充当。

(五) 弁護士費用

原告ら訴訟代理人らに対し

(1) 手数料 三万円支払済。

(2) 謝礼金 三〇万円の支払約束。

(3) 負担金 原告両名各二分の一。

4  よつて原告両名は被告らに対し各自二〇八万七、六三七円およびこのうち右弁護士費用を除いた一九二万二、六三七円に対する昭和四二年一〇月三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  答弁(被告ら)

1  請求原因1項の事実中、原告ら主張の日時、場所で被告則の運転する自動車に衝突されて訴外和子が即死したことは認め、その余は争う。

2  同2項の(一)の事実は争う。同項の(二)の事実中、被告宝四郎が本件事故車の運行供用者であるとの点は認める。同宝導が運行供用者であるとの点は否認する。被告宝導は「世羅運送」経営者被告宝四郎の従業員であるに過ぎない。同項(三)の事実は否認する。

3  同3項の事実中、原告らが和子の相続人であること、原告らが自賠法一六条による責任保険金三〇〇万円および被告らからの金四〇万円を受領したことは認めるが、その余の損害は不知。

三  抗弁(被告ら)

1  被告宝四郎、同則に対する原告の本訴提起のときは、すでに本件事故の日である昭和四二年一〇月三日から三年を経過しているから、同被告らの損害賠償責任は時効によつて消滅しており、同被告らは本訴において右時効を援用する。

2  かりに然らずとするも、本件事故についてすでに当事者間において示談が成立しているから、原告らの本訴請求は失当である。すなわち、昭和四二年一〇月五日原告らと被告宝四郎の代理人被告宝導との間に「(一)被告宝四郎は原告らに対し同月七日限り金一〇万円、同年一〇月から向う二年間毎月末日限り金二万円宛を支払うこと、(二) 自賠法責任保険金三〇〇万円を原告らが受領すること」という内容の示談が成立しているから、原告らの損害賠償請求権はすでに消滅している。

3  以上の主張が理由がないとしても、本件事故につき被害者和子において夢遊病者のような格好で事故現場を歩行していた点過失があるので、過失相殺さるべきである。

四  抗弁に対する答弁(原告ら)

抗弁その1は否認する。原告らが被告宝四郎につき本件加害自動車の運行供用者であることを知つたのは、被告宝導に対する本訴進行中、同被告の昭和四五年一〇月九日付準備書面によつてである。

抗弁その2および3の事実はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  被告宝導、同宝四郎に対する請求の判断

1  原告ら主張の日時場所において、被告善則の運転する自動車が訴外和子と衝突し、右和子が即死したことは当事者間に争いがない。

2  原告らは被告宝導が右自動車の運行供用者であつたと主張する。

しかし右事実を確認するに足る証拠がなく、かえつて、〔証拠略〕によれば、被告宝四郎は昭和三一年一〇月ごろから広島陸運局長の免許を得て「世羅運送」という商号により貨物自動車運送業を単独で経営していたものであり、前記事故車は同被告の単独所有であつたことが認められる。よつて原告らの右主張を採用しない。

3  次に原告ら主張の被告宝導の代理監督者責任の有無について判断する。

〔証拠略〕を総合すれば、被告宝四郎は、昭和三一年一〇月ごろから広島県世羅郡世羅町大字戸張九三七番地において、前記のとおり「世羅運送」という商号の下に貨物自動車運送業を経営したものであるが、昭和三五年ごろ右世羅町から遠距離にあり、かつ人口数の多い福山市新庄町に営業所を設けたこと、昭和四二年当時、右世羅運送は、大型トラツク一〇台、小型トラツク二台、従業員二七、八名の規模であつたが、前記世羅町における運送業務は全く振わず、前記福山営業所が主たる営業の根拠となつていたこと、そして被告宝四郎は当時七二才の老人であり、前記世羅町に居住したままで福山に移住したことはなく、福山営業所は被告宝四郎の長男である被告宝導が同営業所開設以来、責任者となつて、その業務を総括し、同営業所に居住して、常時同営業所に出務し、自動車の配車、運行、従業員の指示等指導監督に当り、同営業所における経理事務は妻信子に分担させていたこと、被告宝導は被告宝四郎の前記営業から独立すべく、昭和三七年ごろから陸運局に営業許可の申請をし、再三却下されたうえ、昭和四四年春ごろその許可を受け、以後、「世羅通運」という商号で貨物自動車運送業をしているが、その営業所は前記「世羅運送」福山営業所と同一場所であつて、その得意先の一部を引継いだものであり、被告宝導の前記営業許可があつて間もない同年五月二二日被告宝四郎は広島陸運局に「世羅運送」の廃業申請をし、同年七月三一日その許可を受けていること、被告則は本件事故当時、前記世羅運送福山営業所に勤務していたものであり、その業務上、福山営業所から東京に加害車を運転し、その帰途、本件事故を起したこと、被告則は事故後、すぐ右福山営業所に連絡し、当時東京にいた被告宝導は右営業所からの連絡により本件事故を知つて直ちに右営業所に引返していること、そして、被告宝導は本件事故後、被告宝四郎の代理人であることを告げないで、原告らと示談のための折衝に当つており、自己の名において原告らに対し後記一時金を送付していたことがそれぞれ認められる。

以上認定事実によれば、被告宝導は本件事故当時、被告宝四郎の代理監督者として従業員被告則の監督に当つていたというべきである。〔証拠略〕によれば、被告宝四郎は「世羅運送」の従業員の選任をしていたことが認められるが、代理監督者は、事実上使用者に代つて被用者の選任、監督のいずれか一方または双方をなす者をいうから、被告宝導が福山営業所において、その従業員の監督をしていたこと前認定のとおりである以上、同被告が従業員の選任につき決裁権がなかつたとしても、代理監督者というを妨げず、ほかに前記認定を左右するに足る証拠がない。

しかして、〔証拠略〕を総合すれば、被告則は本件事故につき原告ら主張のとおり前方不注意の過失があり、右事故は「世羅運送」の事業の執行中発生したものであることが認められるから、被告宝導は本件事故による損害につき賠償責任がある。

4  被告宝四郎が、前記加害車の運行供用者であつたことは当事者間に争いがない。したがつて、同被告は自賠法第三条本文に基づき運行供用者としての損害賠償責任がある。

5  そこで、被告宝四郎主張の消滅時効の点について判断する。

〔証拠略〕を総合すれば原告らは昭和四二年一〇月五日に本件事故の加害運転手が被告則であることを知り、また同月六日車の所有名義が被告宝四郎になつていることを聞知したが、そのころ、被告宝導が車の所有者であり、かつ被告善則の使用者のように振る舞い、被告宝導の名において示談の折衝をしたり、後記一時金を支払うことを約束したりしたので、車の所有名義に疑問を抱き原告らは加害車の運行供用者が被告宝導であると信じ込んでいたこと、そこで、原告らは弁護士脇山弘、同脇山淑子を訴訟代理人として被告宝導に対する運行供用者責任を訴求すべく本件損害賠償請求(昭和四五年(ワ)第四八号事件)を昭和四五年二月一二日提起したが、昭和四五年一〇月一二日の第四回口頭弁論期日において同被告から運行供用者は被告宝四郎であることの主張並びに立証をされて、始めてその事実を知り、昭和四六年二月八日被告宝四郎に対する損害賠償請求(昭和四六年(ワ)第三三号事件)を提起したことが認められ、これを動かすに足る証拠がない。

思うに民法七二四条の加害者を知つたときとは、損害賠償を請求すべき相手方を知つたときであることを意味し、運行供用者が自賠法三条により責任を負担する場合は、被害者が加害自動車の保有者の存在を認識し、または容易にこれを認識し得るときをいうのであるが、被害者が加害自動車の所有名義人を聞知しても、もつともな事情でその他の者をもつて保有者と誤信した場合には、後に至つてその誤信に気づき、真の保有者を確知したとき、その時点から消滅時効が進行するものと解すべきである。

本件につき前記認定事実によれば、原告らにおいて被告宝四郎が運行供用者であることを知つたのは昭和四五年一〇月一二日であると認めるを相当とするので、その時点から三年間の消滅時効が進行するものというべきところ、右三年の期間はまだ経過していない。よつて被告宝四郎の時効の抗弁は理由がない。

6  被告宝導、同宝四郎らは本件事故につき示談が成立しているから、前記損害賠償責任が消滅していると主張する。

しかし、右主張に副う〔証拠略〕は、原告蒲沢章夫、同蒲沢京各本人の供述と対比してたやすく措信することができない。また〔証拠略〕にも被告らの右主張に副う旨の記載があるけれども、〔証拠略〕によると、昭和四二年一〇月五日沼津市内の訴外和子の下宿先で原告らおよび被告宝導との間に慰藉料等損害金についての話合いが行われ、それにつき原告章夫は金一、〇〇〇万円を要求したのであるが、埓があかず、そのうち被告宝導から「同被告が自賠法による強制保険金三〇〇万円を含めた金三五八万円を原告らに支払う」旨を記載した示談書と題する書面を手渡され、これに署名捺印するよう求められたこと、原告らとしてはこれに応ずる意思がなかつたので、原告章夫は右書面に署名捺印をしなかつたことが認められるから、〔証拠略〕をもつて被告らの前記主張の積極的資料とすることができない。

また、〔証拠略〕によれば、昭和四二年一〇月五日被告宝導は原告章夫に対し金五八万円を向う二年間の分割払いで支払うことを約束し、同日、右両者間にその旨記載された念書と題する書面が取り交わされ、以後昭和四四年六月五日までの間、原告章夫は被告宝導から合計金四二万円の送金を受けたことが認められるけれども、前記のように示談書〔証拠略〕に原告らの署名捺印がなく、右示談書に記載されている三五八万円の支払金額が後記認定の本件事故により発生した亡和子、原告らの損害額と比較すると少額に失し、恰かも亡和子に重大な過失があるような感じを抱かせる金額となつていること、前記送金の基となつている合意書が念書と題されていること並びに〔証拠略〕とを総合して考察すると、原告らと被告ら間には確定的な示談が行われておらず、原告章夫が被告宝導から受領した前記金員は、他日確定的に示談が成立した場合に一時金としてこれを充当する趣旨のものであつたと認めるを相当とするから、前記念書並びに受領金の事実は、前記認定の妨げとならない。そのほかに被告ら主張の示談成立を確認するに足る証拠がない。

よつて、被告らの前記抗弁を採用することができない。

7  そこで本件事故により生じた原告らの損害額について検討してみる。

(一)  〔証拠略〕によれば、和子は本件事故当時、二四歳一〇月の女性であり、大成産業株式会社に勤務していて、その収入月額が三万円であることが認められる。

平均余命年数表並びに就労可能年数表によれば右和子の推定余命は四八、七四才、就労可能年数三〇年であることが認められ、和子は独身の女性であつたから、前記月収から控除すべき生活費を五〇パーセントとするを相当とし、純利益は月額一万五、〇〇〇円となる。以上をホフマン復式により計算すれば、和子の死亡による逸失利益が原告主張のとおり三二四万五、二七四円となることが明らかである。

しかして、原告らが和子の相続人であることは当事者間に争いがないから、原告らはそれぞれ一六二万二、六三七円宛相続したものといわなければならない。

(二)  〔証拠略〕によれば、和子は高校卒業後、就職のため原告らの手許を離れたのであるが、明るい性格の女性であつたことが認められ、適令期にある娘を突然失つた原告らの驚きと悲しみは大である。

そこで、当裁判所は原告らの慰藉料は各一五〇万円をもつて相当と認める。

(三)  なお、被告らは和子において過失があつたと主張するけれども、これを認めるに足る証拠がないから、被告らの過失相殺の主張を採用しない。

(四)  〔証拠略〕によれば、原告らは本件訴訟の弁護士費用として脇山弘、同淑子らに手数料三万円を支払い、かつ成功謝金三〇万円の約束をしたことが認められるところ、本件事故による損害として認め得る右弁護士費用は二〇万円(原告章夫、同京各一〇万円)をもつて相当とする。

(五)  以上認定損害額は原告ら一人につき各金三二二万二、六三七円となるのであるが、原告らが自賠法による損害賠償金として各一五〇万円、被告宝導から各二〇万円の支払を受けたことは原告らの自白するところであり、右各金員を前記(一)の損害金に充当すると、残り損害額は原告ら一人当り各一五二万二、六三七円となる。

8  そうすると、被告宝導は代理監督者として、被告宝四郎は運行供用者として各自原告らに対しそれぞれ金一五二万二、六三七円およびそのうち前記弁護士費用を除いた一四二万二、六三七円に対する昭和四二年一〇月四日(本件事故発生の翌日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

したがつて、原告らの被告宝導、同宝四郎に対する請求は右認定の限度で認容し、その余は棄却すべきである。

二  被告に対する請求の判断

(一)  被告が原告ら主張の日時場所において、その運転する自動車によつて和子を死亡させたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで同被告主張の時効の抗弁について考察してみるに、〔証拠略〕によると、原告らは昭和四二年一〇月五日本件事故の加害運転手が被告であり、右事故により慰藉料等損害の発生した事実を知つたことが認められ、これを動かすに足る証拠がない。

そうすると、被告の原告らに対する本件事故による損害賠償責任は昭和四二年一〇月五日から三年を経過した昭和四五年一〇月四日の満了をもつて時効消滅しているものといわなければならない。

そうすると、被告に対する原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

三  結論

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 広岡保)

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